



ある日 爽やかな陽気に誘われて 小さな旅に出る
道行く人の波 その後を歩いて行けば
そこには 古い町並み 漆喰壁に 黒光りの屋根瓦の連なり
昔風情に包まれた 異界空間が広がる
かつて この道を歩いた事がある・・・
脇差しを携えた下級武士とおぼしき自分
ほつれる髪に手をやり 漆喰壁にもたれかかって物思いに耽っている
あの日の あの茜空 あの時の 漂う香の匂いも立ち込めて・・・
黴臭いような 懐かしい一塵の風が
すーっと心の中を吹き抜けていく
そんな想いが目まぐるしく 脳裏をよぎる
突然の既視感に襲われて 時が止まったように 想念の逆旋が起こる
無意識幻想 心の奥底の魂の元型に刻まれた
あの時代の映像 あの時の原画像が甦る・・・
そんな感慨をむごくも破ったのは
狭い道にひしめくように連なる車列の発する喧騒
せっかくの文化遺産 その醸し出す雅趣も風情も何もかも
否応なしに今の埃っぽい空気感に連れ戻す
これぞ悲しき 『小江戸の旅』・・・